先日の投稿でもご紹介しましたが、成年後見制度とは、認知症、知的障害等精神上の障害があることにより、財産の管理と日常生活などに支障のあるご本人を支える仕組みです。
この制度は大きく区分けすると、ご本人の判断能力が、既に不十分な場合に活用する「法定後見制度」と、ご本人の判断能力が十分なうちに、あらかじめ備えておく「任意後見制度」があることと、
併せて、このうちの「任意後見制度」を利用したいとする方が少しずつ増えているとともに、
この制度が、人生の最後まで自分らしく生きよう、人生の終焉を見つめ、準備をすることで今をより良く生きようと思われる方にとって、心強い仕組みであるといったことをお伝えしたところです。
先日の投稿→ 任意後見契約をされる方が少しずつ増えています
今回は、高齢社会における支え合い、共生社会の実現の一つの手段である、このような任意後見制度を含む成年後見制度の利用促進を図っていく上で、あえてお伝えしておかなければならない新聞記事がありましたので紹介します。
成年後見人に就く専門職が増えています
成年後見 弁護士ら不正件数最悪
『認知症などで判断能力が十分でない人の財産管理を行う成年後見制度で、後見人を務めた弁護士や司法書士ら「専門職」による財産の着服といった不正が、昨年1年間に37件(被害総額約1億1,000万円)確認され、件数としては過去最多だったことが、最高裁の調査で分かった。』
『調査は、後見人が高齢者らの預貯金を着服する事件が相次いだため、最高裁が10年6月に始めた。』
(以上、平成28年4月14日付け南日本新聞社会面から引用)
成年後見人等とご本人との関係
両制度のうちの法定後見制度では、ご本人をサポートする成年後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)は、本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて、家庭裁判所が選任することになっています。
選任される者としては、ご本人の配偶者等親族のほかにも、法律・福祉の専門家その他の第三者(個人・団体)が選ばれる場合があります。
もちろん、選ばれた成年後見人等は、その事務(職務)について家庭裁判所に定期又は随時に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることとされています。
ところで、成年後見人等には、実際にどのような者が選任されているのでしょうか?
上記の調査とは別の、最高裁判所が毎年公表している統計から、成年後見人等(任意後見人は含みません。)とご本人との関係を見てみると、
成年後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)が開始された案件34,067件(1案件に複数人選任されたものあり。実際の案件数は31,713件)(平成26年1月~12月)のうち、
「配偶者、親、子、兄弟姉妹及びその他親族」は11,937件(全体の35.0%)
(内訳)
- 配偶者 1,043件(同3.1%)
- 親 867件(同2.5%)
- 子 6,386件(同18.7%)
- 兄弟姉妹 1,733件(同5.1%)
- その他親族 1,908件(同5.6%)
「親族以外の第三者」は22,130件(全体の65.0%)
(内訳)
- 司法書士・司法書士法人 8,716件(同25.6%)
- 弁護士・弁護士法人 6,961件(同20.4%)
- 社会福祉士 3,380件(同9.9%)
- 行政書士・行政書士法人 835件(同2.5%)
- 社会福祉協議会 697件(同2.0%)
- 市民後見人 213件(同0.6%)
- 税理士・税理士法人 64件(同0.2%)
- 精神保健福祉士 17件(同0.05%)
- その他法人 1,139件(同3.3%)
- その他個人 108件(同0.3%)
となっています。
やはり、成年後見人等に占める家族・親族、特に”子”の割合は多いですが、それ以上に、司法書士、弁護士が選任される割合も多いです。
そして、これら専門職(司法書士、弁護士、社会福祉士、行政書士等)の割合は年々増えているそうです。
さらに増えていくであろう専門職の成年後見人
認知症などの判断能力が低下したご本人の成年後見人等に就くこと、すなわちご本人の身上監護と財産管理という極めてプライベートな業務に当たることは、そもそも難しいことであるのに、ましてやコミュニケーションが十分取れない場合であれば、例え身内であっても、いや身内としての感情もあるからこそ困難とも言えます。
このことは、成年後見制度に限らず、介護の現場を見聞きしていれば分かります。
こんなときなどには、親族以外の第三者である者にお願いせざるを得ないことから、成年後見人等に専門職が選任されることは、今後増えこそすれ減ることはないと考えます。
そんな中での、前出の専門職による財産の着服などが後を絶たないといった記事でした。
もちろん、このような不正は、成年後見人等に専門職が就いたケースに比べて、家族・親族の方が就いたケースの方が全体として多いのですが、専門職の場合は酌量の余地の無い論外な行為です。
しかし、このようなことが続いていると、成年後見制度自体の信頼が無くなっていくこととなり、高齢社会における支え合い、共生社会の実現の一つの手段である成年後見制度の利用促進どころではなくなってしまいます。
信頼される成年後見制度とするために
こんな成年後見制度ですが、制度の利用が進んでいないようです。
最高裁の統計によると、平成26年12月末日時点における成年後見制度(任意後見制度を含む。)の利用者数は184,670人。
一方で、平成24年の認知症高齢者数は全国で約462万人と推計(厚生労働省)されており、加えて知的障がい者、精神障がい者などを合わせると、成年後見制度の潜在的な利用者数は800万人を超えているとも言われていますから、まだまだ利用促進が必要です。
こうした中、先日(平成28年4月8日)、成年後見制度の利用の促進を図るための法案(議員立法)が今国会で成立しました。
(成年後見制度の利用の促進に関する法律と、成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)
このうち前者(成年後見制度の利用の促進に関する法律)においては、
「成年後見制度の利用の促進について、その基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、及び基本方針その他の基本となる事項を定める」こと等により、
「成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進すること」を目的としています。
具体的には、法律で定める「基本方針」の中で、国や地方公共団体等が、
- 成年後見制度の地域住民に対する情報提供等
- 成年後見人等の担い手の確保、育成等
- 成年後見人等の事務の監督等を強化するための家庭裁判所等の体制整備等
を推進することのほか、
政府に対して、
- 成年後見制度の利用促進に関する目標や、政府が総合的・計画的に講ずる施策を掲げた、成年後見制度利用促進基本計画(閣議決定)を策定すること
- 基本計画策定等のための成年後見制度利用促進会議(会長:内閣総理大臣)と、内閣府に成年後見制度利用促進委員会を設置すること
を義務付けています。
このような制度・仕組みの整備もそうですが、同時に、任意後見人を含む成年後見人、特に信頼されて就いた専門職の成年後見人による不正を無くしていくために、
成年後見制度に対して、一人ひとりが関心を持つとともに、監視していくことも、成年後見制度の利用促進のための一つかと思います。